2015年9月6日

eMAXISに見る企業系列と利益相反の問題点-フィデューシャリー・デューティーに反する信託報酬の分配構造

フィデューシャリー・デューティーとは、受託者たる金融機関が受益者の利益を最優先するという受託者責任の規範です。投資信託の場合、現行法でも委託会社(運用会社)と受託会社(信託銀行)には忠実義務の履行が規定されているわけですが、実際には委託会社と受託会社の間で受益者に対する忠実義務が確保されているとは言い難い現実があります。とくに委託会社と受託会社が同じ金融グループに属し、系列の関係にある場合にこれが顕著。例えば、低コストなインデックスファンドとして評価の高い三菱UFJ国際投信のeMAXISシリーズですら例外ではありません。こういった現状は今後、フィデューシャリー・デューティーの観点から大いに批判される可能性があります。そこで今回、あえてこの点を指摘してみたいと思います。

eMAXISシリーズは委託会社が三菱UFJ国際投信、受託会社が三菱UFJ信託銀行、販売会社が各銀行・証券会社ですので、委託会社と受託会社が同じMUFGグループの属する系列の関係になります。そのことを念頭に置いてみると、とくに問題だと思うのは信託報酬の分配構造です。例えばeMAXIS TOPIXインデックスの場合、信託報酬の分配構造は次のようになっています(いずれも税抜。2015年9月6日現在)。
eMAXIS TOPIXインデックス
委託会社:0.175%
販売会社:0.175%
受託会社:0.05%
信託報酬合計:0.4%
(純資産50億円未満の部分)
純資産が50億円、100億円を超えると委託会社の取り分が減少し、販売会社の取り分が増加することになっていますが、受託会社である三菱UFJ信託銀行の取り分は年0.05%で変化しません。

これを同じく低コストなインデックスファンドである<購入・換金手数料なし>ニッセイTOPIXインデックスファンドと比較するとどうなるか。信託報酬の分配構成は以下のようになっています(いずれも税抜。2015年9月6日現在)。
<購入・換金手数料なし>ニッセイTOPIXインデックスファンド
委託会社:0.13%
販売会社:0.13%
受託会社:0.03%
信託報酬合計:0.29%
こちらも受託会社は三菱UFJ信託銀行です。つまり三菱UFJ信託銀行は同じTOPIX連動のインデックスファンドの受託業務でありながら、eMAXISでは0.05%の信託報酬分配を取り、<購入・換金手数料なし>シリーズからは0.03%の信託報酬分配を受け取っていることになる。この両者の差を、三菱UFJ信託銀行はどのように合理的に説明するつもりでしょうか。もし合理的な説明ができなないら、それはサービスの対価で一物二価の状態を放置していることになり、eMAXISの受益者に対するフィデューシャリー・デューティーを果たしていないことになる。

さらに問題なのは委託会社たる運用会社の姿勢です。そもそも信託報酬の分配構造を含めた商品設計は運用会社が担当したはず。そうなると、運用会社は信託銀行がより低廉な報酬で同一のサービスを他社の商品で提供していると分かれば、同一サービス同一報酬の原則に基づき報酬の引き下げを要求すべきです。それが受益者に対する忠実義務であり、フィデューシャリー・デューティーを果たすことになるはず。ところが実際はそうなっていない。ここに重大な問題がある。つまり、利益相反の問題です。

委託会社である三菱UFJ国際投信と受託会社である三菱UFJ信託銀行は同じMUFGグループに属する系列の関係にあります。三菱UFJ信託銀行が同じ企業系列に属する三菱UFJ国際投信に対して系列外企業との取引よりも高い報酬を取り、三菱UFJ国際投信もそれを認めるということは、受益者の利益よりもMUFGグループの利益を重視した行為と理解されてもおかしくない。つまり、受益者に対して利益相反の関係にある取引を行っていることになります。これこそフィデューシャリー・デューティーに明確に反する行為です。

現在、日本の投資信託の問題点の多くは販売会社の責任に負うところが多い。販売会社の無法は今後、フィデューシャリー・デューティーの観点から厳しく批判されるようになるでしょう。一方で運用会社と信託銀行には、現行の信託法、信託業法、投資信託及び投資法人に関する法律でも受益者に対する忠実義務が法的に規定されているのですから、より厳密な意味でフィデューシャリー・デューティーの履行が求められている。フィデューシャリー・デューティーとは、それほど厳しい規範なのだということを強調する意味でも、あえて両者の責任を強調したい。

そもそも金融機関が理解すべき大切なことは、運用会社・信託銀行・販売会社すべてを含む意味での受託者の利益は、受益者の利益の上にしか存在できないということです。そのことを前提にする限り、受益者の利益を最大化することは、結果的に受託者の利益をも最大化することになる。だから金融機関は、フィデューシャリー・デューティーの履行を規制ではなく、自己の利益を最大化する条件だと考えるべきです。

例えば、もし三菱UFJ信託銀行がeMAXISの受託業務の報酬を引き下げ、それによって三菱UFJ国際投信がeMAXISの信託報酬を引き下げたらどうなるか。それはMUFGグループの利益よりも受益者の利益を重視していることになり、利益相反の取引を排してフィデューシャリー・デューティーを果たしたことになる。投資家の多くは、そういった三菱UFJ国際投信と三菱UFJ信託銀行の姿勢を高く評価するでしょう。それがeMAXISのさらなる純資産増加につながれば、結果的にファンドとMUFGグループの収益性は強化されます。

私はeMAXISの受益者の一人として、そういった健全なファンドの発展を願っています。だからこそ、あえて厳しい指摘を行ってみました。そして、こうした問題はeMAXISに限りません。同じく低コストなインデックスファンドとして評価の高いSMTシリーズやインデックスeシリーズ、Funds-iシリーズもそれぞれ運用会社と信託銀行が金融グループの系列関係にあります。こうしたシリーズでも今後、フィデューシャリー・デューティーの観点から企業系列と利益相反の問題に対する評価がなされるようになるでしょう。各シリーズとも、こうした問題をクリアして、さらなる発展を期待したいと思います。

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