2016年10月19日

年金基金がアクティブファンドに投資すると受益者から訴えられる時代に



日本では、インデックスファンドやETFによるパッシブ運用の認知度がまだまだ低いのですが、最近の米国ではものすごい勢いでアクティブ運用からパッシブ運用への資金シフトが進んでいます。その理由は様々なあるのですが、ウォール・ストリート・ジャーナルの記事を読んで驚きました。なんと最近では年金基金などがアクティブファンドに投資すると、受益者から訴訟を起こされるケースがあるとか。そこで訴訟リスクを回避するためにも、年金基金などがアクティブ運用からパッシブ運用へと資金を移動させているそうです。

役割終えた銘柄選択、パッシブ運用へ資金流入加速(ウォール・ストリート・ジャーナル)

有料記事で申し訳ないのですが、ようするに米国ではアクティブファンドのコストの合理性を裁判で問われた場合、それを証明するのが非常に難しくなっているということです。こうなってくると、アクティブ運用はコスト体系などを根本的に見直さない限り、ますます資金をパッシブ運用に奪われるかもしれません。

アクティブ運用がパッシブ運用を上回るリターンを継続的に上げるのはなかなか難しいというのは米国でも同じです。それに対してアクティブファンドのコストはパッシブファンドより割高です。米国の場合、ETFなどパッシブ運用商品のコスト低下が著しいですから、パッシブ運用のコストはアクティブ運用のそれと比べて30分の1にまで低下しているものもあるそうです。

これだけパッシブ運用のコストが下がると、アクティブ運用のコストの割高感が目立つ上に、やはり一部のファンドを除いて大多数のアクティブファンドはベンチマークを下回るリターンしか上げることができていません。こうなると、受益者から、何のために割高な信託報酬を支払っているのかという疑問が寄せられてしまう。

しかも米国の場合、従業員退職所得保障法(エリサ法)によって年金運用に関して金融機関や運用関係者がフィデューシャリーデューティー(受託者責任)を遵守することが義務付けられています。だから、年金基金がアクティブファンドに投資して、そのファンドがベンチマークを下回った場合、受益者から“アクティブファンドに投資したこと”自体がフィデューシャリーデューティーに反しているとして訴えられるケースが出てきたとか。つまり、「ベンチマークを上回るかどうか不確実なアクティブファンドに割高なコストを支払って投資する」という行為自体が、受益者の利益を専らにしていないというふうに批判されてしまう。

さらに、受益者が自分で投資商品を選ぶ確定拠出年金ですら、アクティブファンドをランアップしているだけで「割高なコストの商品の存在を許容している」ことになり、それが受託者責任に反しているとして訴訟リスクを負ってしまうというから驚きです。

こうなると年金基金を持つ企業は大変です。もし訴訟になれば、投資したアクティブファンドのコストの合理性を証明しなければならないのですが、アクティブファンドはパッシブ運用を上回るリターンを上げることを目的として運用され、その必要経費としてコストが設定されています。しかし、実際はベンチマークを下回ってしまった場合、コストの合理性を証明するハードルが極めて高くなってしまうのです。

なにより年金基金などは訴訟リスク自体を負いたくないわけです。そこで単純にパッシブファンドだけに投資することで、コストの安さを追求するという点のみでフィデューシャリーデューティーを遵守しているという形にしたくなる。これが米国でアクティブ運用からパッシブ運用へ資金シフトが加速している一つの要因だそうです。


このような潮流が続くと、アクティブファンドはコスト体系の在り方を大きく変えざるを得ないのではないでしょうか。投資の結果は不確実ですから、リターンだけをコストの合理性の根拠に置いてしまうと、つねにコストの合理性が脅かされてしまうのです。だからアクティブファンドは、それこそリターン以外の付加価値を提供することでコストの合理性を担保しなければならなくなるのかもしれません。

いずれにしても米国の投資・運用業界は厳しい。“やらずボッタクリは絶対に許さん”ということです。さすがに行き過ぎのような気もしますが、逆に“やらずボッタクリ”が横行している日本と比べれば、やはり米国はさすがだといわざるを得ません。

ちなみに米国のアクティブファンドは、日本のアクティブファンドと比べるとコストはかなり低いものが多いのですが、それでもこの有様です。日本は企業型確定拠出年金などで割高なファンドしかラインアップしていないプランもたまに存在するのですが、米国ならすぐにその企業は受益者である従業員から訴えられるでしょう。そう考えると、やはり米国がスゴイもんだと感心してしまいます。

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