2015年11月3日

子育て世代に好ましいのは収入保障保険なのか定期死亡保険なのか



前回のエントリーで出口治明さんの生命保険とのつき合い方 (岩波新書)について紹介しました。

『生命保険とのつき合い方』-生命保険の本義に基づく入門書

その中で出口さんが、子育て世代には収入保障保険よりも定期死亡保険の方が好ましいと書いていること紹介した上で、私も「なるほど」と思ったと書いたところ、Twitterでいくつかご意見をいただきました。私自身は独身であり、子供もいませんので収入保障保険にも定期死亡保険にも入っていません。ですから、あまり説得力のある説明はできないのですが、せっかくですので、なぜ「なるほど」と思ったのかを簡単にメモしておこうと思います。

基本的には出口さんの本を読んでもらいたいのですが、子育て世代には収入保障保険よりも定期死亡保険の方が好ましいという見解は、出口さんが世界中の生命保険会社の幹部と意見交換したうえで感じたことだそうです。出口さんは次のように書いています。
その時に得心したことは、死亡保障の本質は「次の世代を育てるための教育費の担保にある」ということでした。世界では大人になれば「自分のご飯は自分で稼いで食べる」ことが当たり前ですから、生活費の担保より教育費の担保に目が向くのはごく自然なことです。
つまり大切なことは、保障で得る保険金の使い道をどう考えているかということです。収入保障保険は年を経るにつれて保障額が逓減していく仕組みですから、教育費の担保としては子供の進学状況などによっては将来的に保障額が不足する可能性がある。一方、定期死亡保険なら、契約段階で将来必要と見込む教育費分の保障額で契約すればいい。そして子供が成長するにつれて将来必要な教育費は減少していきますから、それに合わせて更新時に保障額も引き下げていけば、無駄な保険料を支払わずに、それぞれの段階で必要と想定される将来の教育費を担保できるという考え方です(このあたりは簡単なシミュレーションが本で紹介されていますので、そちらを読んでください)。

つまり、保険金の使い道が生活費なら収入保障保険でいいのですが、子供の教育費なら定期死亡保険の方が好ましいということになります。まず、死亡保障の本質は「教育費の担保」であるという考え方に「なるほど」と感じたわけです。先進国では教育の機会を確保することが人生設計上、非常に重要ですから、親が万一死亡した場合、それが理由で子供が十分な教育を受けられなくなるリスクを回避しようという考え方です。そして、生活費に関しては、残された家族が頑張って働けば、何とか食っていけるはずだという非常にドライな考え方が根本にあるともいえるでしょう。

同時に、日本では収入保障保険にも一定の人気があるという現実にも「なるほど」と感じました。欧米の場合、例えば母子家庭になっても女性が働くことは日本よりも容易でしょうし、寡婦に対する公的支援も多い。しかし日本の場合、とくに専業主婦は配偶者が死亡したとき、簡単にすぐ働いて収入を得ることは現実的に難しいので、実際に日々の生活費に困るケースが少なくありません。まして子供がいれば母子家庭に対する社会インフラも貧弱ですから、単純に「自分のご飯は自分で稼いで食べることが当たり前」とは、なかなか言えないのです。そういった具体的なニーズがあるから、収入保障保険にも、やはり意味があるのでしょう。いずれにしても生命保険というのは、それぞれの家庭のニーズに応じて購入すべきものですから、一概にどれが正しく、どちらが間違いとは言えない。だから出口さんも、あくまで「好ましい」という是非を含まない穏当な表現で収入保障保険と定期死亡保険を比較しているのです。

ただ、非常に気になる点も指摘されています。それは、収入保障保険と定期死亡保険を比較した場合、収入保障保険の方が純保険料を抑えることができる仕組みになっているということ。つまり、それだけ生保会社の取り分である付加保険料(手数料)を大きく設定しやすいそうです。このあたりの保険料の仕組みについても本で解説されていますので詳細は省きますが、どうも定期死亡保険よりも収入保障保険の方が「売り手側にとってメリットがとても大きい商品」のようです。こういったことは、やはり知っておいた方がいいと思います。

こういった諸々のことを踏まえて、いちいち「なるほど」と感じたわけです。生命保険というのは非常に複雑な商品ですから、私自身がどこまで理解できているのかも、あまり自信がありません。ですので、気になった人はぜひ出口さんの本を実際に読んでみてはいかがでしょうか。あらためていいますが、非常に良心的な入門書でした。

関連コンテンツ