2016年6月25日

暴落があるからこそ威力を発揮する積立投資



英国のEU離脱(Brexit)の是非を決める国民投票の結果が24日に出ました。事前の予想を覆いして離脱派の勝利となり、日本株も大暴落です。円高も急速に進み、海外資産への打撃も少なくありません。私の資産も1日で給料の数カ月分に相当する金額が無くなりました。やはり相場は難しい。暴落はいつだって起こるものなのです。そして、あらためて思うのは、暴落があるからこそ威力を発揮するのが積立投資であるということです。一括投資の方が投資効率に優れるのは事実ですが、一括投資をして大きな暴落に遭遇すると、かなり長い期間にわたって含み損に耐えなけければなりません。その心理的負担を考えると、やはり相場下落時に安値を拾うことで平均買付価格を引き下げ、結果的に含み損の期間を短くできる積立投資の方が個人投資家には向いているような気がします。

一括投資と積立投資、どちらが有利なのかというのは昔から議論されている話題ですが、じつは投資効率の面から考えれば、一括投資の方が有利です。また、リスクの面でも積立投資の方がリスクが逓減されるというのは誤解を招く言い方であって、厳密には積立投資でもリスクの総量は減少しません。このあたりは山崎元さんなどが何度も指摘しています。

ドルコスト平均法について整理する(山崎元「ホンネの投資教室」)

しょせん、ドルコスト平均法による積立投資は「「平均買いコスト」に投資家の視点を集中させることで、投資対象が値下がりした時の「気休め」をあらかじめ提供している投資方法」にすぎないのです。しかし、こういった「気休め」が個人投資家にはとても大事ともいえるのです。

例えば一括投資して、今回のような暴落に遭遇したとします。かなりの含み損を抱えることでしょう。いずれ相場が回復すれば含み損は解消されますが、経験的な感覚としてはかなりの時間がかかるものです。その間、投資家は含み損に耐えなければなりません。この心理的負担というのは、決して小さなものではありません。

一方、積立投資なら暴落に遭遇しても、その後に積立を継続することで平均買付価格は低下していきますから、相場が横ばいでも含み損の比率(金額ではありません)は低下していきます。そこで相場が回復すると、一括投資よりも早く含み損が解消されます(そのかわり上げ相場では平均買付価格が上昇しますから、相場が下落に転じたときに含み損に転落するのも早いですが)。

これは投資効率を犠牲にして心理的負担を軽減していることになります。しかし、投資効率と心理的負担軽減のどちらが大事なのかといえば、個人投資家にとっては後者だと断言します。なぜなら、個人投資家は自分のカネを運用しているからです。心理的負担を無視できるのは、しょせん他人のカネを運用している機関投資家の発想です(逆に機関投資家は手数料を取っているのですから、投資効率に徹底的にこだわる義務があります)。

一括投資と積立投資、どちらが合理的かといえば、一括投資の方が合理的に決まっている。しかし、人間は完全に合理的には行動できません。なによりも投資は継続することが大事ですので、市場に居続けるためには、できるだけ心理的負担の少ない方法を選択するのは、それはそれで合理的なのです(だからリスク選好・許容度が高い人は一括投資すればいいのです)。

また、積立投資にはポートフォリオのニュートラルポジションを維持しやすいという利点もあります。ニュートラルポジションとはあらかじめ決めた資産配分の比率ですが、一括投資をしようとすると、どうしても安値玉を拾いに行くので相場下落時に株式がオーバーウエートになり、逆に上昇時には買い控えるのでアンダーウエートになる。これは上手くハマれば一種の逆張り投資として大成功なのですが、現実は安値を拾ったと思ったら、さらに株価が下落するというケースが多い。結果、オーバーウエートしていた分だけ傷口を広げる。

その点、積立投資を続けていれば、ポートフォリオのポジションはつねにニュートラルです。相場観に自信のある人なら資産配分のポジションをオーバーウエートさせたりアンダーウエートさせるなどアクティブな運用ができるでしょうが、個人投資家レベルでこれを実践するのはハードルが極めて高い。それならつねにポートフォリオのポジションをニュートラルに保ち、相場の変動に対応した方が結果的によい成果が出るかもしれませんし、なにより気楽です。こういう気楽さというのも投資を継続する上では無視できないでしょう。

そんなわけで現在のような下落相場というのは、積立投資の威力が発揮される場面です。もっとも、リスク選好・許容度の高い人にとっては一括投資のチャンスかもしれません。積立投資をしている人でも、余裕があれば少しだけスポット購入してみるのもありでしょう。このあたりは各個人それぞれですから、なによりも自分にとってもっとも心理的負担が少ない方法を選択すればいい。そもそも投資なんかで不安になるのはバカげたことなのですから。

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