2016年11月30日

『公的・企業年金運用会社の元社長が教える波乱相場を〈黄金のシナリオ〉に変える資産運用法 かんたんすぎてすみません。』―これから投資を始めようとする人は必読



いよいよ冬のボーナス支給の時期ですね。なんとなく相場もお祭り気分なので、ボーナスを種銭に投資でも始めようかと考えている人も少なくないかもしれません。投資を始めるにあたって、いろいろと本を読んだりして勉強をスタートするケースも多いでしょう。その場合、投資については初心者だけれども、真面目に長期投資に挑戦しようと考えている人にぜひ読んでもらいたい1冊が岡本和久さんの『公的・企業年金運用会社の元社長が教える波乱相場を〈黄金のシナリオ〉に変える資産運用法 かんたんすぎてすみません。』です。投資入門書はいろいろとありますが、そもそも「資産運用とは何か」「投資とは何か」という原理原則から実践的な技術と心構えまで総合的に教えてくれるのがこの本なのです。まさに資産運用・投資の王道中の王道を説いた本で、ここに書いてることを理解すれば、こと長期投資については完全に初心者卒業でしょう。あとは実践あるのみとなる素晴らしい本なのです。

岡本和久さんは日興證券を経てバークレイズ日本法人の社長を務め、現在は投資教育で活躍しています。文字通り年金運用のプロ中のプロ。その岡本さんが公的・企業年金の運用で培った考え方のエッセンスを惜しげもなく披露したのがこの1冊です。しかも、まったく奇をてらったところがなく、文字通り「かんたんすぎてすいません」という、誰でも実践可能な汎用性のある手法をとことん追求しているのです。

なにより本書で素晴らしいと思ったのは、第1章できちんと株式会社や株式、債券の仕組みについて解説していることです。例えば株式の価値と価格がどのように形成されるのかということを原理から説明しています。これは意外かもしれませんが、ある程度の投資歴がある人でも株式の価値や価格がどのように形成されるのかを原理から理解していないケースがあります。例えば、なぜ企業が成長すれば株価が上昇するのかを簡単に説明しようとすると、意外と言葉に詰まるのでは。そういう投資の基礎中の基礎だけれども、意外とおろそかにされている知識をきちんと教えてくれる投資入門書は多くありません。

そういった証券の仕組み理解した上で、第2章で資産運用にとって重要な3つのポイント、「時間を味方につける」「リスクとリターンの関係を知る」「コントロールできることをコントロールする」について説明しているのですが、この部分も非常に勉強になります。ある意味でこの部分を完全に理解しないで投資に臨むと、手痛い失敗を被る可能性が非常に高い。同時に、個人投資家がプロ投資家に対して決して不利な立場にだけあるわけではないことも理解できるでしょう。プロができないことを、個人投資家なら簡単にできてしまうのです。

第3章も本書の最大の眼目となる部分です。「人生を通じた資産運用の実際」として岡本さんが強調するのが、「人生を通じた資産運用の目的」とは、「購買力の維持」だという大原則です。つまりリタイア後に収入が減少しても購買力が維持することが資産形成の目的だということ。この場合、将来のインフレの可能性を考慮しなければなりません。ここに資産形成・運用に「投資」という営みを組み込む必要性が明瞭になります。この点に関しては既にブログでも紹介しました。
【関連記事】
資産形成・運用の究極の目的は「購買力の維持」

こういった原理原則を踏まえた上で、アセットアロケーションや国際分散投資の方法について紹介していますが、やはり年金運用に倣うじつに手堅い方法が紹介されています。そして第4章ではステップアップとしてコア・サテライト運用や岡本さん得意のバリュー平均法についても詳細されていますので、これも興味のある人は参考になるでしょう。ただし、この辺りはやや上級編でもあります。

そして最終章「資産運用耐久力こそ成功への道」は、投資初心者から上級者まで等しく熟読玩味するべき内容が含まれています。投資は、始めることよりも続けることの方ははるかに難しい。なぜなら、投資のの過程で投資家は“3つの魔”に襲われるから。それは「無知」「恐怖」「欲望」です。とくに「欲望」が最初や二番目ではなく、まさに最後に出会う魔だとしているところに岡本さんの慧眼があります。投資に対する知的好奇心が、いつしか欲望に転換してしまう危険性に警鐘を鳴らしているのですが、これこそ投資にある程度親しんできた人が最後に嵌る落とし穴なのです。

3つの魔に負けないためにはどうするべきか。岡本さんは「株価は影だ」と考えよと強調します。株式価値を実体として、市場の恐怖という側面から光を当てれば、影である株価は小さく見える。逆に市場の欲望の側面から光が当たれば、影である株価は実体よりもはるかに大きく見える。でも、実体である株式価値は同じなのです。だから株式の「価値」と「価格」を峻別することが重要なのですが、この時に最初に学んだ株式の仕組みの知識が生きてくるのでしょう。株式の価値がどのように形成されるのかという原理原則が理解できていれば、影である株価の変動に惑わされることもなくなる。そういったことを学べるという意味で、まさに本書の構成は素晴らしい首尾一貫性を持っているといえます。

投資に関する入門書はたくさんありますが、もし初めて投資にチャレンジしようとする人から参考書を1冊だけ求められたら、私は迷わず本書を勧めます。これから資産形成・運用や投資を始めようとする人は必読の1冊といえるでしょう。

【ご参考】
本書の内容については、岡本さん自身がYouTubeでプレゼンしているので、こちらもぜひ見てください(Chapter0からChapter5まであります)。

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