2017年2月2日

運用会社は、まず"現在投資いただいているお客様"に報いなければならない



ニッセイアセットマネジメントの<購入・換金手数料なし>シリーズ特設ページに、シリーズの仕掛け人である寺前芳康商品開発部課長とファイナンシャルプランナーの深野康彦氏による対談が掲載されています。

「徹底的にコストに拘る」(ニッセイアセットマネジメント)

<購入・換金手数料なし>シリーズの姿勢がよく分かる内容なのですが、特に寺前課長が「現在投資いただいているお客様に報いたい」と明言したところに感心しました。こういう姿勢こそ、インデックスファンドの低コスト競争が過熱する中で、運用会社として最も大切に考えなければならない点だと感じていたからです。

対談で<購入・換金手数料なし>シリーズが「徹底的にコストに拘る」というコンセプトの下に開発された商品であることが強調されています。なぜなら、インデックスファンドは原則として指数に連動した運用成績となりますから、コストの多寡がそのまま受益者の利益に直結するからにほかなりません。寺前課長は次のように話しています。
そのため、当社の<購入・換金手数料なし>シリーズは、シリーズ設定の当初から「徹底的にコストに拘る」ことを大きなコンセプトとして、市場のインデックスファンドのなかで相対的に低い信託報酬の商品を作ることで、このコンセプトを世に問うてきました。
「市場のインデックスファンドのなかで相対的に低い信託報酬の商品を作る」という部分が重要です。明らかに<購入・換金手数料なし>シリーズは、他のインデックスファンドとの比較の中で徹底して低コストを追求する戦略をとっていることが明確になったわけです。

そういた戦略が鮮明になったのが、より低コストなファンドが登場した際に、それを下回る水準にまで2度にわたって信託報酬を引き下げたことでしょう。つまり有言実行しているということです。この姿勢は高く評価するべきです。しかも、信託報酬の引き下げは運用会社単独ではできないことも素直に打ち明けています。それでも受託会社(信託銀行)や販売会社(銀行・証券)を説得することを「大変だからといって音頭を取る委託会社が躊躇するわけにはいきません」と断言しているところが立派です。

さらに感心したのは、既存ファンドの信託報酬を引き下げることの意味を明確に認識している点です。深野氏から「他の委託会社では低い信託報酬の商品を市場に投入するにあたっては、新商品を作ることで対応しています。これは先ほどの販売会社や受託会社との調整を避けているからなんでしょうか?それに対して、ニッセイアセットマネジメントが敢えてその困難をおかしてまで信託報酬率の引下げに拘る理由は何ですか?」と問われた際の答えが素晴らしい。
他社がどのように考えているかはわかりかねますが、当社としては<購入・換金手数料なし>シリーズをご愛顧いただいている、即ち現在投資いただいているお客様に報いたいと考えています。く購入・換金手数料なし>シリーズに投資いただいているお客様の多くは「コストに拘る」ことを強く意識されているお客様ですから、更にコストを抑えた商品が他にあれば乗り換えたいと思われるでしょう。そういったお客様に、安心して長期投資、積立投資を続けていっていただくためには「信託報酬率の引下げ」という選択肢しかありませんでした。
運用会社がまず考えなければならないのは、すでにファンドに資金を投じている受益者の利益のはずです。つまり「現在投資いただいているお客様」に報いることを最優先するという当たり前のことをしっかりと認識している。確かに運用会社が新規でより低コストなインデックスファンドを設定することは、インデックス投資家全体にとっては利益をもたらしますが、それでは既に自社の受益者となっている投資家と、そうでない投資家の間に優先順位が生じません。厳しい見方をすれば、それは既存の受益者の利益を軽視しているともいえるのです。

だから、既存ファンドの信託報酬を引き下げるということは、新規に低コストなファンドを設定すること以上に価値あることなのです。それこそ既にファンドの受益者となっている人の利益を専らにするということであり、本当の意味でのフィデューシャリー・デューティー(受託者責任)を全うしていると言えるからです。

こういう<購入・換金手数料なし>シリーズの考え方と行動に他のインデックスファンドシリーズもぜひ追随・実践して欲しいものです。現在、インデックスファンドの低コスト競争は、ある意味で最終決戦ともいえる局面です。<購入・換金手数料なし>シリーズのほかにも、アセットマネジメントOneの「たわらノーロード」、大和証券投資信託委託の「iFree」、三井住友アセットマネジメントの「三井住友・DC」といった"超"低コストインデックスファンドシリーズがあります。実績面では三井住友トラスト・アセットマネジメントの「SMT」「インデックスe」、三菱UFJ国際投信の「eMAXIS」、野村アセットマネジメントの「Funds-i」もまだ多くの受益者がいて、しっかりとした存在感を維持しています。

だから、そろそろファンドの新規設定による低コスト競争は打ち止めにして欲しい。その上で今後は、既存ファンドの信託報酬を引き下げる形での低コスト競争が始まらなければならないのです。なぜなら運用会社は、まず"現在投資いただいているお客様"に報いなければならないからなのです。そういう"本物"の競争が、ごく当たり前になることを希望して止みません。

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