2017年4月2日

積立NISAの対象商品が規制されるのは当然だ―運用ビジネスに求められる公益性



2018年から制度が始まる積立NISA。現在、金融庁を中心に対象となる金融商品についての議論が進められています。

家計の安定的な資産形成に関する有識者会議(金融庁)

有識者会議では、積立NISAで購入できる金融商品について様々な条件を設定する規制が検討されているようです。これは一種の規制強化であって、時代の流れに逆らう動きともいえるます。だから、規制内容のついて議論する前に、そもそも積立NISA口座で購入する金融商品は規制されるべきかどうかという点について考えておく必要があるでしょう。私は基本的に規制されて当然だと考えています。なぜなら積立NISAは通常の課税口座とは性格が異なり、20年という異例の長さの税制優遇措置が執られているということの意味を深く認識するべきだから。そこには通常の運用ビジネスとは異なる"公益性"が求められるべきなのです。

現在、金融庁の有識者会議で積立NISAで購入可能な金融商品に対して、信託報酬や運用手法の規制が検討されています。例えば信託報酬に関しては以下のような上限を設けることが議論されているようです。

国内資産のみに投資するインデックス投信 0.50%
海外資産を組み入れているインデックス投信 0.75%
国内資産のみに投資するアクティブ運用投信 1.00%
海外資産を組み入れているアクティブ運用投信 1.50%

運用手法の制限については、次のような論点が出されています。

・信託契約期間が無期限又は20年以上であること
・毎月分配型でないこと
・一定の場合を除き、デリバティブ取引による運用を行わないこと
・その他一定の事項

こうした議論が今後、運用ビジネスの現実とすり合わせる中で、より具体的な方向でまとめられていくはずです。いくつか課題もありますが、大きな方向性としては、それほど間違っていないというのが現段階での印象です。

ところで、積立NISA口座で購入可能な金融商品について、なぜ規制を設けなければならないのでしょうか。それは、そもそも積立NISA制度設立の目的が「家計の安定的な資産形成を支援するため」だからです。では、なぜ政府は家計の資産形成を支援しようとしているのか。これはもうはっきりしていて、公的年金制度が財政的な制限でこれ以上の拡充が難しく、それどころか縮小の可能性すらあるからにほかなりません。そのため政府としては、国民の老後に向けた自助努力を支援することで公的年金制度を補完しようとしているのです。

こうした"ホンネ"は、すでに森信親金融庁長官自身が様々な場所で語っていることです。例えば『週刊エコノミスト』2016年7月26日号に掲載されたインタビューでは次のように語っています。
老後の資産をいかに形成するかは、日本の今後の重要な問題です。公的年金など公的扶助の仕組みにはおのずと財政的な制約があるからです。貯蓄を賢く分散投資して資産形成するための土壌を、今こそ作っていくことが必要だと考えています。
だからこそ、積立NISAは、20年という異例なほど長期の非課税期間が認められた。その意味で積立NISAは、個人型確定拠出年金(iDeCo)拡充と合わせて、公的年金制度を補完するというグランドデザインの下に構想されていることは疑いようもありません。

だとするならば、積立NISAで購入できる金融商品が規制されるのは当然でしょう。なぜなら、公的年金制度の補完という役割を担う以上、そこには高度な"公益性"が求められるからです。つまり、(これはiDeCoも同様ですが)積立NISAに関連する運用ビジネスは一種の公益事業としての性格を帯びるわけで、通常の営利活動のように利潤を第一にすることは許されない。積立NISAに商品を提供する金融機関は、少なくともその商品に関しては金融機関の利潤よりも、信託報酬や手数料を抑えることで受益者の利益を優先することが要請される。それは電気、ガスといった公益事業を担う企業は高収益を上げることよりも、まずは利用料金引き下げが求められるのと同じ理屈です。

そのかわりに公益事業には、やはり規制によって事業へのインセンティブが設定されます(例えば参入規制による独占など)。積立NISAの場合、20年という異例の長期にわたる非課税期間が設定されている。これは金融機関にとって顧客開拓のための大きなインセンティブでしょう。さらに流動性にも制限が加えられています。つまり、積立NISAに提供する商品というのは、金融機関にとって「大きく儲けることは許されないが、少額でも息長く利益を確保できる商品」ということになります。

これが積立NISAの対象金融商品が規制される意味です。一種の公益事業である以上、大きく儲けることは許されない。だから手数料や信託報酬が規制されるし、運用期間が無制限もしくは20年とされるのも、インフラ事業と同様に事業の持続性について厳しい制限が設けられるべきというこ考え方でしょう。

こうしたことを考えると、積立NISAの規制とは、金融機関の利潤を制限するものだということです。それは公益事業として求めあれる当然の"公益性"です。もし、金融機関がこうした公益性よりも自社の利潤を優先するならば、その金融機関は堂々と積立NISA対象の金融商品に参入しなければよいだけです。そういった積立NISAの性格というものを金融機関は、よくよく認識しなければならないでしょう。

【補足】
積立NISA以上に公的年金制度の補完という"公益性"を帯びているのは確定拠出年金です。だから本来は確定拠出年金でも対象商品のコスト水準についてもっと規制があってもいいはず。とくに企業型確定拠出年金の商品ラインアップは現在でも高コストな商品が多い。この点は金融庁だけでな厚生労働省も問題意識を持つべきでしょう。

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