2017年5月13日

株式や投資信託を子供名義にするのは最高の投資教育



日本で投資が一般的に普及していない理由ひとつに投資教育が不十分だということがあります。いろいろと制度的な充実が必要なのは事実なのですが、結局のところ投資教育やさらに広義の金融教育というのは家庭でやるしかないのかなとも思います。では、家庭での投資教育としてどういった方法があるのでしょうか。これについては個人的に有力な方法だと思うのが、少額でいいから株式や投資信託・ETFを子供名義のすることではないでしょうか。つまり、子供のうちから投資を経験させてしまう。そうすれば、物心ついたときには子供は子供なりに「投資って、こういうものなんだ」ということを自然と理解するようになる場合が多いのです。

リスク資産への投資というのは難しいもので、いろいろな理屈は理解していても実際に自分が値動きを経験してみないと価格変動に対するやり過ごし方といったことは実感的に理解できません。とくに長期投資となると基本的に人生の中で1回しか経験できないわけですからなおさら。常に「このまま投資を続けていいのだろうか?」という疑問に悩まされる。

こうしたハードルをクリアするには、やはり子供の時から投資教育を行い、投資に慣れ親しんでおくということが必要ではないでしょうか。そこでお勧めの方法なのが、少額でいいから個別株や投資信託を子供名義にしておくということです。そして物心つけば、子供に自分が株式を保有していること、配当や株式価格の仕組みなどを話してあげる。すると子供は自然と投資に慣れ親しんでいきます。投資が特別なことではなく、株式や投資信託を保有することが極々普通のことだという感覚を持つようになります。

このように子供の時から株式を保有することで実践的に投資について理解していくというのは、私自身が経験したことでした。私は自分のお金で株式や投資信託を購入するようになってまだ5年くらいですが、それでも投資に関して一家言あると自負しているのは、株式保有歴だけを見れば40年のキャリアがあるからです。それは、私が生まれたときに祖父が関西電力の株を1売買単位だけ譲渡してくれたからでした。

生まれたときから株式を保有できたことで、配当金の支払い通知が定期的に私名義で送られてきましたが、そのときに(祖父は既に亡くなっていましので)父が株式と配当金の仕組みを説明してくれました。保有から10年も経てば配当金だけで結構な額が貯まるのですが、両親はそれを使って私の学校の制服などを買ったりもしていました。物心ついたころには株式を持っていることが別に特別なことではなく、ごく普通のことだという風に感じるようになっていたのです。そして子供ながらに「大人になったら使わないお金の一部は株式で持っておくものだ」という感覚が自然に身に付いたわけです。

成人したときに私名義の株式と配当振込口座の管理が私に任されるようになりましたが、金額を見て驚きました。20年間で株式評価額は大きく増加し、累積した配当金も(途中で両親がチョロチョロ使ってたにもかかわらず)、それなりの金額になっていたからです。これがどういうことかというと、自分のお金で株式投資を始める前に、既に長期投資の成功体験を持てたということです。私が長期投資の可能性に対してかなりの自信を持っているのは、そういう成功体験を投資をスタートさせる前から持っていたからにほかなりません。

祖父から譲られた関西電力の株式は、さらに貴重な経験を私にもたらしてくれました。関電株は素晴らしい銘柄でしたが、リーマン・ショック、東日本大震災と福島第一原発事故で状況が一変します。株価は大暴落し、無配に転落しました。保有評価額はいちばん酷い時で-78%まで減りました。現在でも-40%台にまでしか戻っていません。そして、いまだに復配の気配もありません。(これは私の勘違いでした。2017年3月期の期末配当から復配となりました。親切な読者さんから指摘されました。)

つまり、祖父から譲られた株式は、長期投資の成功体験だけでなく、大暴落による大きな含み損も経験させてくれた。これは素晴らしいことです。なぜなら、やはり株式投資には大きなリスクがあるということを経験できたからです。しかも、もし自分のお金で投資を始めていたら、大暴落で含み損を抱えたときに「投資って怖い!」と思ったことでしょう。しかし、なにしろ譲渡された株ですから、どれだけ損しても直接的な損失にはなりません。それよりも「どんなに大暴落しても、余裕資金で投資している限りは、べつに死んだり破産したりすることはない」という確信を経験的に持つことができたのです。つまり、投資におけるリスクとの付き合い方を経験的に学ぶことができた。さらに特定の銘柄が大暴落するることによって、分散投資の大切さについても学ぶことができました。私が投資信託やETFについて本格的に勉強し始めたのは、この経験があったからです。

こう考えると、私が投資に対して現在のようなほどよい距離感を持つことができたのは、やはり子供のときから投資を経験してきたからと言えそうです。そういう経験をもたらしてくれた祖父と、祖父から譲られた関西電力株には感謝の気持ちしかありません。だから、現在でも関西電力株は大きな含み損を抱えながらも保有を続けています。これは私の投資姿勢の原点ですから。

だから家庭での投資教育の方法として、子供が物心つく前から少額でいいから株式や投資信託を子供名義で持たせておくというのは最高の実践的教育法ではないでしょうか。最近は個別株の売買単位も小さくなりましたし、投資信託に至っては小額からの購入が可能ですから、簡単にできます。そして子供が物心つけば、少しづつ株式や投資の仕組み、意義について話してあげる。なにより家庭内で株式や投資について自然に会話できるようになることが最大の投資教育効果をもたらすのです。

残念なことに私はまだ独身で子供もいません。でも将来もし結婚して子供ができたら、絶対に株式と投資信託(もしくはETF)を少しだけ子供名義にしようと思っています。それが菟道家の投資教育の伝統だからです。

関連コンテンツ