2017年7月4日

GPIFがESG投資を開始―これも機関投資家に課せられた社会的責任か



年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がこのほど、日本株のパッシブ運用部分で環境や社会、企業統治などの非財務的要素を考慮した「ESG投資」を開始したと発表しました。

ESG指数を選定しました(GPIF)

3つの指数を採用し、約1兆円を振り分けるそうです。ESG投資に関しては様々な意見があるのですが、年金基金などがこれを採用するのは世界的な流れでもあります。これも機関投資家に課せられた社会的責務ということでしょうか。

ESG投資とは、投資家がEnvironment、Social、Governanceの要素を考慮した経営を行っている企業に投資することで環境問題や社会的な課題の解決、透明性のある資本市場の育成を目指そうという考え方です。こうした観点からGPIFは今回、以下の3つの指数を採用し、約1兆円を指数対象企業に投資しました。

FTSE Blossom Japan Index
MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数
MSCI日本株女性活躍指数

各指数選択の妥当性については、GPIFの資料で丁寧に説明されていますのでそれぞれに見解があると思いますが、やはり気になるのは、そもそも公的年金のための資金がESG投資を行うことの是非でしょう。これまでの研究では、ESG指数は通常の指数と比較して良好なリターンとなるケースが多いとされているのですが、それはあくまで過去の傾向に過ぎず、将来のリターンを保障するものではありません。仮にESG指数が通常の指数から大きくアンダーパフォームした場合、年金基金として受益者に対するフィデューシャリー・デューティー(受託者責任)をどのように説明するのかというのは気になるところです。

この点に関して、実は年金運用の先進国である米国では古くから議論となっていました。米国の場合、従業員退職所得保障法(エリサ法)によって年金基金にはフィデューシャリー・デューティーの遵守が厳しく課せられており、明らかに運用利益が減少するような可能性のある運用を行うことが禁止しているからです。ESG投資のような通常のリターン・リスクとは異なる観点を持ち込んだ運用はフィデューシャリー・デューティーの反するのではないかという議論が当初からあったのです。

こうした問題にひとつの答えを出したのが、2006年に国連が提唱した「責任投資原則(PRI)」です。これは機関投資家の意思決定プロセスにESG課題(環境、社会、企業統治)を受託者責任の範囲内で反映させるべきとする世界共通のガイドラインのようなものです。これに基づき、国連環境計画(UNEP)の金融イニシアティブ(UNEP_FI)と国連グローバル・コンパクトが策定されます。

同年4月、カルフォルニア州公務員退職年金基金(カルパース)がUNEP_FIに署名し、年金運用に環境や持続可能性を考慮することを表明しました。これがきっかけとなり、ESG投資はフィデューシャリー・デューティーやエリサ法に抵触しないという考え方が一般的になります。その後、世界各国の機関投資家もUNEP_FIに署名するなど、ESG投資は世界的な潮流となっているのです。そしてGPIFも2015年にPRIに署名しています。

GPIFの国連責任投資原則(PRI)署名のインパクト(大和総研)

その意味で今回のESG投資開始は既定路線であり、やはり機関投資家としての社会的責任ということになるのでしょう。個人的にも資金の一部をESG投資に回すことに賛成です。なぜなら、パッシブ運用といえども、やはり投資家は投資という活動を通じて少しでも世界を良くしていこうという意志を持つべきだ思うからです。

ただし課題もあります。GPIFの資料には「ESG評価の現状」として以下のような注意書きが記されていました。
・財務分析とは異なり、ESG評価については歴史が浅いこともあり、その評価手法については、現時点でスタンダードとなるものは確立されていない。また、評価する上で必要な情報の開示についても十分とは言えない状況
・今回、採用するFTSE社とMSCI社のESG評価の相関関係をみると、緩い相関に留まっている
ようするに、まだまだESG指数の妥当性に関して研究の余地があるということです。その意味でGPIFなど機関投資家は今後、指数算出会社とも連携しながら、ESG評価の方法論と評価基準、それによって算出される指数の高度化に向けて努力していくことが欠かせないと言えそうです。

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