2017年9月4日

無リスク資産の置き場所は個人向け国債変動10年と高金利定期預金のどちらが良いのか



最近、読者さんから質問のメッセージをいただきました。「多くの識者が無リスク資産の置き場所として個人向け国債変動10年を勧めている理由が分からない」というものです。というのも、ネット銀行や信金などのキャンペーン金利を利用すれば、個人向け国債変動10年よりも高金利な商品が存在するのだから、そちらを利用すればいいのではという指摘です。確かにこれは一理あります。そこで私自身は無リスク資産の置き場所として個人向け国債変動10年と高金利定期預金についてどのように考えているがメモしておこうと思います。

個人向け国債変動10年は通常の日本国債と異なり、金利が10年固定利付国債の金利×0.66となる代わりに、直近1年分の金利を返還することでいつでも額面通りに換金できます。最低金利として0.05%が保証されおり、6カ月ごとに金利も見直されますので、金利上昇による債券価格下落リスクもない優れた商品です。これは国債というよりも国に対する定期預金のような商品と解釈すべきでしょう。

ただ、現在の日本の長期金利は0%前後ですから、個人向け国債変動10年の金利も最低保証である0.05%程度にとどまっています。一方、ネット銀行や信金のキャンペーン金利定期預金などを使えば、個人向け国債変動10年を上回る利回りを享受できます。だったら、なにも個人向け国債変動10年を買わずとも、高金利定期預金を賢く活用した方が良いということになって当然です。金利が上昇すれば、その段階で個人向け国債変動10年を買えばよいわけですから。

私は、この考え方には一理あると思う。ただし、その前提として国債を上回る金利を提供している預金商品には、それなりの信用リスクが存在し、そのリスクプレミアムとして高金利が提供されているという大前提を理解することが必要でしょう。簡単に言うと、高金利預金を提供する銀行や信金が破綻するリスクを織り込んでいるから金利が高くなる。実際に高金利定期預金を提供している金融機関は、経営基盤が脆弱なところが多いですよ。

これさえちゃんと理解していれば、個人向け国債変動10年ではなく高金利定期預金を利用するというのは全然問題ない。具体的には、1金融機関ごとに預金保険機構の補償上限である1000万円以内に預入額を抑えておけば、金融機関の信用リスクを第三者に転移させた上で、高金利のメリットだけを享受できます(ただし、実際に金融機関が破綻すると清算に時間がかかりますから、たとえ預金保険の対象でも払い戻しには時間がかかる可能性があることは覚えておくべきです)。

それでは個人向け国債変動10年にはメリットが無いのかと言えば、そうでもありません。例えば金利は6カ月ごとに見直されますから、金利上昇局面できちんと追随してくれる。定期預金の金利は、あくまで金融機関が恣意的に決定するものですから、長期金利が上昇しても預金金利は据え置かれるケースだって多いのです。その場合、下手に預入期間の長い定期預金に資金を入れていると、長期にわたって低金利に固定されてしまうリスクがあります。だから、現在のような歴史的低金利の時代は、定期預金はできるだけ短期のものを利用するべき。

この辺りを総合的に考えると、識者が個人向け国債変動10年を薦める理由も分かります。つまり高金利定期預金を利用する場合は、1金融機関当たり預入額1000万円以内に抑え、できるだけ短期の定期預金を利用するという条件をクリアしてこそ初めて個人向け国債変動10年よりも明瞭に有利な金融商品となるということ。すると、ある程度の資産を持っている人なら、はっきり言って面倒くさいのです。例えば5000万円を高金利定期預金に預けようと思えば、5つの金融機関を探さなければなりません。そして金利上昇局面になれば、それぞれ資金を動かさなければならない。けっこう大変な作業になりますよ。

つまり、高金利定期預金を活用するという方法は、それほど資産を持っていない人こそ利用できる一種の裏技的手法なのです。また、リスクプレミアムに対する理解を読者にしてもらう必要もある。だから識者が広く一般に対して提唱するには、やや特殊性があるのです。そこで誰にでも当てはまる普遍的な方法として個人向け国債変動10年を推すということになります。

そういうわけですから、理屈をきちんと理解していれば、庶民は高金利定期預金を活用して問題ない。実際に私も個人向け国債変動10年よりも短期の高金利定期預金を愛用しています(そんなに資産が無いからでもあります。貧乏でゴメンナサイ)。それに私が無リスク資産の置き場所にしているメガバンクでは、個人向け国債は店頭でしか買えないところが多い。そういう購入時の面倒くささも無視できません(というかメガバンクさん、個人向け国債もネットバンキングで購入できるようにしてください)。どっちにしろ現在のような低金利時代は、個人向け国債も高金利定期預金も実体としてはそれほど大きな金利差にはなりませんし。

もちろん、ある程度の資産のある人なら、やはり利便性の面でも無リスク資産の置き場所は個人向け国債変動10年の一択でしょう。そして、いちいち高金利定期預金を探して資金を動かすといった面倒なことをやりたくない人も、やはり個人向け国債変動10年がお薦め。やっぱり優れた識者の提唱には、普遍性があるのです。

【蛇足】
個人向け国債について「日本が財政破綻して国債がデフォルトしたらどうするんだ」という指摘がありますが、これは議論自体がナンセンスです。なぜなら日本国債の最大の保有者は銀行など金融機関ですから、日本国債がデフォルトしたら全ての金融機関が破綻します。だから日本国債が信用できない人は、それこそゴールドや最近ならビットコインなど仮想通貨でも買うしかないでしょう。もっとも、決済機能が極めて弱いですから、実際にゴールドや仮想通貨で資産を守れたとしても、それを使用する段階で苦労が多いでしょうが。

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