2017年9月18日

iDeCoも「つみたてNISA」も庶民は投資枠上限にこだわる必要はない



今年から個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入対象が拡大されたり、来年からは「つみたてNISA」がスタートするなど庶民がコツコツと資産形成するのに有利な制度が一段と充実してきました。こうなると「せっかくのお得な制度なのだから、最大限に利用しなくちゃ損」という感覚になりやすいものです。でも、ちょっと冷静に考えましょう。iDeCoも「つみたてNISA」も投資できる金額に上限がありますが、だからと言って絶対に上限一杯まで投資しなければならないというわけではないのです。投資は余裕資金でやるというのが絶対条件。つまり、iDeCoにしても「つみたてNISA」にしても庶民が投資枠上限にこだわる必要は全くないのです。

iDeCoは公的年金や企業年金の加入状況によって拠出額の上限があります。国民年金のみ加入の自営業者なら年額81万6000円、企業年金のないサラリーマンや専業主婦は年額27万6000円、確定給付型企業年金のあるサラリーマンと公務員は年額14万4000円です。そして来年からスタートする予定の「つみたてNISA」は年額40万円が投資枠上限です。

このように投資可能額に上限があると、つい「枠をすべて使わなければ損をする」と思いがちです。確かに投資効率という面では枠をすべて使いきることが好ましいのは事実です。その方が、iDeCoなら掛金が所得控除されることによる課税繰り延べ効果を、NISAなら利益が出たときの非課税メリットを最大限に享受できるのですから。

しかし、忘れてはいけないのは「投資において無理をしてはいけない」「投資は余裕資金でやるもの」ということです。つまり、自分のリスク許容度の範囲内でやるべきものだという大原則を忘れてはいけない。iDeCoやNISAの枠上限まで投資することにこだわったばかりに、つい過剰投資になってしまえば本末転倒です。そして、そういった過剰投資は、相場の状況が悪くなったときに物心両面に大変な打撃となり、きっと投資を続けることが難しくなるでしょう。

そもそも庶民にとってiDeCoと「つみたてNISA」の投資枠上限は決して少ない額ではありません。例えばiDeCoに月額2万3000円(年額27万6000円)を拠出し、「つみたてNISA」で月3万3000円(年額39万6000円)を積み立てたとする。月々の投資額は5万6000円です。はっきり言いますが、普通の庶民で毎月5万円以上を投資に回せる家庭が、どれほどいますか?

実際に私の場合でも30代半ばまで月々の手取り収入は20万円強。その頃、毎月の積み立て投資額というのは3万円程度が限界でした。独身の私ですらそうなのですから、家庭を持っている人なら、なおさら投資資金を捻出するというのは大変な行為なのです。だから普通の庶民にとってiDeCoや「つみたてNISA」の枠上限まで投資するというのは、それほど簡単なことではない。

そして、投資枠上限にこだわって無理に資金を捻出した場合、それが日々の暮らしのキャッシュフローを圧迫する危険性も無視できません。投資資金を捻出するために無理な節約生活をやったりすると、"生活の質(クオリティ・オブ・ライフ=QOL)"が低下する危険性があるのです。実はQOLの低下も投資を続けることが難しくなる大きな要因です。積み立て投資のような長期投資は、ちょっとでもストレスを感じるようなやり方では、絶対に続きません。

だから、iDeCoや「つみたてNISA」を始めようとする人は、まずは日々の生活に支障のない金額からスタートすればいい。iDeCoは月額5000円から拠出できますし、「つみたてNISA」は恐らく金融機関の投信積立サービスを利用するでしょうから、それこそ月100円から1000円といった極少額から始めることができます。なによりも自分のリスク許容度の範囲内で、そして資金捻出にストレスを感じない金額から始めればいい。枠上限一杯まで投資することにこだわる必要などないのです。

そうやって無理のない金額から投資を始めたら、同時に少しずつ日々の生活のキャッシュフローを見直す。もしかしたら無駄な支出が見つかるかもしれません。でも、やっぱり無理をしてはいけない。QOLが劇的に低下しないように少しずつ取り組むべきです。ちなみに、絶対にやってはいけないのは「旦那さんの小遣いを減らすこと」です。これをやるとQOLどころか家庭の円満もおかしくなる危険性がある。

そうこうしているうちに、仕事を頑張って給料が少しは増えるかもしれません。少しずつ投資に回せるお金が増えてくる。この時はじめて投資枠の上限を意識すればいい。家庭によってiDeCoを優先するのか、「つみたてNISA」を重視するのかはそれぞれです。いずれにしても無理のない形で資金を捻出することが、投資を続けるためには欠かせないのです。

そもそも庶民の個人投資家はフルインベストメントなんかにこだわる必要は一切ありません。投資効率なんか無視していい。投資効率が問われるのはプロの世界だけです。なぜならプロは報酬をもらって投資活動をしているのですから、投資効率が問われるのは当たり前。でも個人投資家は自分のお金を投資している。投資効率よりも、いかにストレスフリーに、そしてQOLを低下させないように投資するかが大切なのです。

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