2018年4月9日

日本国の衰退と日本企業の成長は無関係



インデックス投資というのは幅広い国・地域に分散投資することが基本なのですが、定期的に「××投資不要論」が登場します。最近では「日本株への投資は不要」という意見もチラホラ。別に誰が何に投資しようが個人の自由ですから批判はしませんが、前提となる理屈がちょっとおかしいと感じることが少なくありません。日本株投資不要論の場合、だいたいが「日本国は将来的に衰退していくのだから、そこへの投資は不要」という理屈です。でも、はたして日本国が衰退したら日本企業も衰退するのでしょうか。私には日本国の衰退と日本企業の成長は無関係に思えてなりません。

「日本株投資不要論」で多く見られる理屈は「日本国衰退論」です。具体的には、だいたい次のような理由が挙げられています。

①日本は人口減少と少子高齢化が進む
②消費や生産が将来的に減少するため、日本経済も縮小する
③このため日本企業は大きな成長が期待できない

このうち、①と②は事実でしょう。でも③についてはちょっと違うと思う。たしかに日本国内の消費や生産は減少するだろうし、それによって日本経済も縮小するかもしれませんが、だからといって日本企業が成長できなとは限らない。なぜなら、日本企業は日本国内だけを対象にビジネスを展開しているわけではないからです。

例えば日本貿易振興機構(ジェトロ)の「ジェトロ世界貿易投資報告2017年版」を見ると、2016年度の日本企業の海外売上高比率は56.5%です。また、2016年の日本の対外直接投資は前年比24.3%増の1696億ドル(国際収支ベース、ネット、フロー)と過去最高を記録しました。いずれも右肩上がりで増加している。つまり、現在の日本企業の収益というのは基本的に半分以上を海外市場に依存し、その傾向はますます強まっているわけです。

この単純なデータを見るだけで「日本国の衰退=日本企業は成長できない」という図式がいかにいい加減か分かるというものです。日本企業の多くが、たとえ日本国がどうなろうとも企業として存続・成長できるような事業構造を作ろうと努力している。現実の企業経営というのは、個人投資家が考える以上に厳しい分析と判断の下になされているのですから当然のことです。

また、もし一国の国力の盛衰とその国の企業の成長に相関性があるなら、日本だけでなくほとんどの先進国の企業が成長できないことになります。なぜなら、人口が増えず、経済成長率が低下しているのは日本だけではなく、先進国に共通した現象ですから。だから「日本企業への投資は不要」という人は、それこそ先進国の企業ではなく中国やインド、アフリカなど新興国・途上国の企業への投資を優先すべきでしょう。ところが日本株投資不要論者の中に、そういった意見は意外と少ない。

逆に「日本株投資不要論」と同じく「新興国株投資不要論」が存在します。その理屈は「新興国の成長の果実は先進国の企業が吸い上げるから」というものですが、だとするならば日本企業が新興国から成長の果実を吸い上げることも十分にあり得ることだし、実際に多くの日本企業はそれを目指している。海外への直接投資が増加しているというのは、そいうことです。

結局、どこの国・地域がどのようの成長・成熟・衰退を繰り返そうとも、それぞれの企業の成長とはそれほど関係がないというのが現実ではないでしょうか。例えば日本国は第二次大戦の敗戦で一度は破綻しましたが、敗戦を跨いで存続・成長を続けた日本企業は無数にあります。

だから、あまり単純化した図式で投資について語ってはいけないと思う。あまり極端なことを言っていると将来的に恥をかく可能性もあります。やはり安易に「××投資不要論」を唱えるよりも、平凡だけど日本を含む幅広い国・地域に分散して投資するという方法こそ「最強の投資法」ではないでしょうか。なぜなら、少なくともそれには過去の歴史に基づく経験則上のエビデンスがあるのですから。

※ちなみに、本当に一国の国力や経済構造と関係のある資産があるとしたら、それは現金なのかもしれません。

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